データ分析、始める前に何を考える?「仮説」の基本【入門】
はじめに:データ分析、漠然と始めていませんか?
データ分析という言葉を聞いて、「会社のデータをとりあえず見てみよう」「グラフを作ってみよう」と考えている方もいらっしゃるかもしれません。もちろん、データを眺めることから気づきを得ることもありますが、未経験の方が漠然とデータを見始めるだけでは、「結局、何が分かったんだろう?」「次に何をすればいいんだろう?」となってしまいがちです。
データ分析を効果的に進めるためには、始める前に少しだけ考えるべき重要なステップがあります。それが「仮説を立てる」ということです。
このステップを理解することで、データ分析は単なる数字の羅列を見る作業から、ビジネスの課題を解決するための強力なツールへと変わります。この記事では、データ分析における「仮説」とは何か、なぜそれが重要なのか、そしてどのように仮説を立てるのか、未経験の方にも分かりやすくご説明します。
データ分析における「仮説」とは?
データ分析における「仮説」とは、「きっとこうだろう」「〜が原因ではないか?」「このようにすれば〜なるのではないか?」といった、データを使って検証したい「仮の答え」や「推測」のことです。
例えば、あなたの会社の特定商品の売上が落ちてきたとします。このとき、考えられる原因として以下のような推測が浮かぶかもしれません。
- 「最近、競合他社が似たような新商品を発売したからではないか?」
- 「商品の価格を上げたことが原因ではないか?」
- 「新しいプロモーションが顧客に響いていないのではないか?」
- 「季節的な要因でたまたま落ちているだけではないか?」
これらの「〜ではないか?」という推測一つ一つが、「仮説」になり得ます。データ分析では、これらの仮説が正しいかどうかをデータを使って検証していくことになります。
なぜデータ分析に「仮説」が必要なのか?
では、なぜデータ分析を始める前に仮説を立てることがそんなに重要なのでしょうか?主に以下の4つの理由があります。
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分析の目的が明確になる: 仮説があると、「この仮説を検証するためには、どんなデータが必要で、どんな分析をすれば良いのか」という方向性が定まります。羅針盤がないまま大海原に出るのではなく、目的地を決めてから船を出すようなイメージです。
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無駄な分析を防ぐ: 仮説がないと、手当たり次第に色々なデータを集めてはグラフを作り…を繰り返してしまいがちです。これは時間も労力もかかりますし、結局何も有効な結論が得られないことが多いです。仮説を持つことで、必要なデータや分析手法に絞り込むことができます。
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分析結果の解釈がしやすくなる: 仮説を持って分析を行うと、結果が出たときに「仮説通りだった」「仮説とは違った。なぜだろう?」と、次の思考に繋がりやすくなります。これはビジネスアクションを考える上で非常に重要です。
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ビジネスアクションに繋がりやすい: データ分析の目的は、ビジネスの意思決定や改善に役立てることです。仮説検証型の分析は、「この推測が正しければ、次にこの施策を打とう」というように、結果が直接具体的な行動に結びつきやすくなります。
つまり、仮説はデータ分析を「宝探し」から「狙いを定めた調査」に変えるための鍵なのです。
仮説を立てるための基本的な考え方
では、どのようにして仮説を立てれば良いのでしょうか?難しいことではありません。基本的には以下のステップで考えてみましょう。
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ビジネス上の「課題」や「疑問」を明確にする: 「なぜ売上が落ちたのだろう?」「どうすれば顧客満足度が上がるだろう?」「どの顧客層が最も価値が高いだろう?」など、あなたがデータ分析で明らかにしたいビジネス上の課題や疑問を言葉にしてみましょう。これが仮説の出発点です。
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考えられる「原因」や「関係性」をいくつかリストアップする: ステップ1で明確にした課題や疑問に対して、「〇〇が原因かもしれない」「もしかしたら△△と□□に関係があるのでは?」といった可能性を、あなたの経験や常識、チームメンバーとの議論などを通じてできるだけ多くリストアップしてみましょう。ブレインストーミングのように自由に発想するのがコツです。
- 例: 売上が落ちた原因 → 値上げ、競合の新商品、広告の停止、顧客の購買頻度低下、特定の地域での不振、など。
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リストの中から「データで検証できそうか」を考える: リストアップしたアイデアの中には、データで検証できるものと、そうでないものがあるかもしれません。データ分析の仮説としては、手持ちのデータや集められるデータで検証可能なものを選びます。
- 例: 「値上げが原因か?」→ 値上げ前後の売上データ、価格変更履歴のデータなどで検証可能。
- 例: 「競合の新商品が原因か?」→ 自社商品の売上データに加え、市場データや顧客アンケートデータなどで示唆が得られるかもしれないが、直接的な検証は難しい場合もある。
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仮説を具体的に表現してみる: 選んだアイデアを、「もし〇〇ならば、データは△△のようになるだろう」という形で、もう少し具体的に表現してみます。
- 例: 「もし値上げが原因ならば、値上げ後に商品の購入数が減少しているだろう。」
- 例: 「もし新しいプロモーションが響いていないならば、プロモーション対象者のサイト訪問率や購入率が向上していないだろう。」
このように仮説を具体化することで、次にどんなデータを見て、どんな分析をすれば良いかがより明確になります。
仮説を立てる際のポイント
未経験の方が仮説を立てる際に意識すると良いポイントをいくつかご紹介します。
- 最初は難しく考えすぎない: 最初から完璧な仮説を立てようと気負う必要はありません。「もしかしたら、これが関係あるかも?」くらいの気軽な気持ちで始めてみましょう。
- 「なぜ?」を掘り下げる癖をつける: 何か気になるデータやビジネス上の動きがあったときに、「なぜこうなっているんだろう?」と疑問を持つことが仮説思考の第一歩です。
- 複数の仮説を持つ: 一つの課題に対して、原因は一つとは限りません。複数の仮説を持って分析に取り組むことで、多角的な視点が得られます。
- まずは経験や常識から考える: いきなり高度な分析手法を考えるのではなく、これまでの経験やビジネスの常識から当たりを付けることが、現実的な仮説を立てる上で役立ちます。
まとめ:仮説思考でデータ分析をもっと効果的に
データ分析は、単にデータを集めてグラフを作る作業ではありません。特にビジネスにおいては、「なぜ」を解明したり、「どうすれば改善できるか」を見つけたりするための手段です。
そして、その手段を効果的に使うためには、「きっとこうではないか?」という仮説を持って分析に臨むことが非常に重要です。仮説があることで、分析の方向性が定まり、無駄が減り、そして最終的にビジネスの意思決定に繋がりやすくなります。
最初から難しい仮説を立てる必要はありません。日々の業務の中での疑問や「こうなったら良いのに」という思いを、「〇〇が原因かも?」「△△すれば改善するかも?」という仮の答えに変えてみる練習から始めてみましょう。この「仮説を立てる」という習慣が、あなたのデータ分析スキルを一段階引き上げてくれるはずです。
次にデータ分析に取り組む際は、ぜひ「今回の分析で、どんな仮説を検証したいのか?」を考えてみてください。