データ分析で知っておきたい「偏り」の話【入門】
なぜ「データの偏り」を知る必要があるのでしょうか?
データ分析を始めたばかりの頃は、目の前のデータを使って計算したり、グラフにしたりすることに意識が向きがちです。しかし、どんなに正確な計算やきれいなグラフを作っても、分析のもとになっているデータ自体に「偏り」があると、思わぬ落とし穴にはまってしまうことがあります。
例えば、「最近の顧客の行動を分析しよう」と考えたとします。そこで、Webサイトにアクセスした顧客のデータだけを集めて分析したとします。その結果から「顧客はこういう商品を求めている」という結論を出して新しい施策を打ったとします。しかし、もしあなたの顧客の中にはインターネットをあまり使わない層が多く含まれているとしたらどうでしょう? Webサイトのデータだけでは、全体の顧客の行動を正しく捉えられていない可能性があります。
このように、データが特定の傾向に偏っている状態を理解しておかないと、せっかくの分析が間違った判断につながってしまうことがあるのです。これが、「データの偏り」について知っておくべき理由です。
「データの偏り」とは具体的にどういうこと?(バイアスとは)
「データの偏り」とは、分析に使っているデータが、本来知りたい「全体」の状況を正確に反映していない状態を指します。統計学やデータ分析の世界では、この「偏り」のことを「バイアス (Bias)」と呼ぶことがあります。
例えば、全社員の意見を知るためにアンケートを実施したとします。もし、そのアンケートに答えてくれたのが、特定の部署の社員や、特定の意見を持つ社員だけだった場合、集まったデータは「全社員の意見」ではなく、「特定の偏った社員の意見」になってしまいます。
データに偏りが生じる原因は様々です。 * データの集め方: 特定の方法で集めたデータに偏りが生じる(例: オンラインアンケートだけだとネットを使わない人が含まれない)。 * 対象の絞り方: 特定の条件でデータを選ぶと、特定のグループに偏ってしまう(例: あるキャンペーン参加者だけを分析対象にする)。 * 期間の選び方: 特定の短い期間のデータだけを見ると、季節変動など一時的な状況に偏る可能性がある。
このように、意図せずとも、データ収集や選択の過程で「偏り」は発生しうるのです。
偏りがあると、なぜ困るのでしょうか?
データに偏りがあると、その分析結果は「偏ったデータに基づいた結果」になってしまいます。これは、例えば以下のような困った事態を引き起こす可能性があります。
- 全体像が見えなくなる: 一部の偏ったデータだけを見ても、全体の傾向や実態は分かりません。
- 間違った意思決定: 偏った分析結果をもとに重要なビジネス判断を下すと、施策が失敗したり、顧客のニーズからズレたりする可能性があります。
- 例: 若年層に偏ったデータだけを見て、全年齢向けの製品開発の方向性を決めてしまう。
- 問題の本質を見誤る: データが偏っていることに気づかず分析を進めると、本当の問題点とは違うところに原因があると考えてしまうかもしれません。
このように、データの偏りは、分析の信頼性を大きく損ない、最終的にビジネスの成果にも悪影響を与える可能性があるのです。
どんな「偏り」があるの?(入門レベルの例)
データ分析でよく遭遇する代表的な偏りの例をいくつかご紹介します。これらはほんの一例ですが、どのような状況で偏りが生じるかのイメージを持つ助けになります。
- サンプルバイアス(標本の偏り): 分析対象として選んだデータ(これを「標本」と呼びます)が、本来知りたい全体のデータ(これを「母集団」と呼びます)を代表していないケースです。
- 例: 顧客満足度調査で、普段からよく利用しているヘビーユーザーにだけアンケートが届いてしまう。その結果、「満足度が高い」という偏ったデータが集まる。
- 選択バイアス: 特定の基準で分析対象を選んだ結果、そこに特定の性質を持つデータだけが集まってしまうケースです。
- 例: ある商品の購入者だけを分析対象にした場合、その商品に興味がない人や、価格で他の商品を選んだ人のデータは含まれません。これは、「その商品を選んだ人」という特定のグループにデータが偏っている状態です。
これらの偏り以外にも様々な種類がありますが、まずは「データは必ずしも全体を代表しているわけではない」という意識を持つことが第一歩です。
未経験者でも「偏り」に気づくための簡単なチェックポイント
データの専門家でなくても、分析を始める前にいくつかの点をチェックすることで、偏りの可能性に気づきやすくなります。
- データの出所と収集方法を確認する:
- そのデータはどのようにして集められましたか? (例: Webサイトのアクセスログ、顧客アンケート、POSデータなど)
- 誰のデータですか? (例: 全顧客、特定のキャンペーン参加者、特定の地域の人など)
- いつのデータですか? (例: 特定の期間、過去1年間、リアルタイムなど)
- これらの情報から、「どのようなデータが集まりやすいか」「どのようなデータが含まれていないか」を考えてみましょう。
- データの全体像を把握する:
- データの件数は十分ですか? 少なすぎるデータは偏りが大きくなりがちです。
- 例えば、顧客データなら、年代、性別、地域などの基本的な属性の分布を見てみましょう。特定の属性に極端に偏りはありませんか? Excelで簡単な集計やグラフを作ってみるのが有効です。
- 「このデータは、知りたい全体の何をどの程度代表しているか?」と問いかける:
- 分析の目的(知りたい全体像)に対して、手元のデータはどのくらい適切かを常に意識しましょう。
これらのチェックポイントを意識するだけでも、データの偏りに気づき、より慎重に分析結果を解釈できるようになります。
偏りを完全に無くすのは難しい。大切なのは「考慮すること」
データの偏りを完全に無くすことは非常に難しい場合が多いです。ビジネス活動の中で得られるデータには、どうしても何らかの制約や性質が付随するからです。
しかし、大切なのは、「自分の使っているデータには、もしかしたら偏りがあるかもしれない」と常に意識することです。
- 偏りがある可能性を理解した上で、分析結果を慎重に解釈しましょう。断定的な結論を急がず、「このデータを見る限りはこう言えるが、他のデータも確認する必要があるかもしれない」のように考える癖をつけます。
- 可能であれば、異なる性質のデータをいくつか組み合わせて分析することで、偏りの影響を軽減できる場合があります。
- 分析結果を報告する際には、「このデータは〇〇という方法で集められたため、△△のような偏りがある可能性があります」といった補足情報を加えることで、報告を受ける側もより正しく結果を理解できるようになります。
まとめ
データ分析において「データの偏り(バイアス)」を理解することは、正確な分析結果を得て、適切な意思決定を行うために非常に重要です。
まずは、あなたが扱っているデータが「どのように集められたのか」「誰のデータなのか」「いつのデータなのか」を確認し、「全体を正しく代表しているだろうか?」と考えることから始めてみましょう。
完璧なデータは存在しないかもしれませんが、データの偏りを意識し、その影響を考慮することで、データ分析の質は大きく向上します。焦らず、一歩ずつデータの性質を理解する努力を続けていきましょう。